慶應義塾

教育概念の哲学的分析

執筆者プロフィール

  • 渡邊 福太郎

    社会学研究科 教育学専攻 准教授

    渡邊 福太郎

    社会学研究科 教育学専攻 准教授

概念は手に取ることも見ることも、実験室に持ち込むことも計測することもできません。それにもかかわらず、私たちの知覚や思考は概念によって規定されており、さらには新たな概念の誕生によって、私たちの経験の様態は大きく変貌します。哲学的な営みの特徴は、こうした概念それ自体を考察対象とする点にあると言えるでしょう。

教育という概念を考察対象にする場合、ある特有の困難が生じます。私たちは自らの経験から、何を「教育」と呼び、何をそう呼ばないかを区別しています。「教育問題」をめぐる対立が、しばしば人格間での衝突の様相を呈してしまうのも、個人によって自明視される教育観の背後に、その人自身の人格形成プロセスが控えているからにほかなりません。このとき、教育概念にあえて限定的な定義を加え、誰もが合意できる理論を構築することによって、衝突を一時的に回避することもできるでしょう。そのかわり、私たちひとりひとりの具体的な人格形成のプロセスは捨象されます。これとは逆に、教育概念を拡張する方向へ進むこともできるでしょう。個々人の人生は、それぞれが教育概念の一側面を照らし出し、ときには概念それ自体に変容をもたらすものとして位置づけられます。

現在の私は後者の方向性を取っています。教育概念の豊かな含意を明らかにするとともに、新たな方向への拡張可能性を探り続けることが、教育哲学という学問分野に特徴的な営みであると考えています。