慶應義塾

1: ベージュ脂肪細胞を誘導する食餌と腸内細菌を同定/ 2: 多発性硬化症は腸から始まる? ―小腸が担う新たな免疫制御機構

今月のサイエンス - 2026年05月

1: ベージュ脂肪細胞を誘導する食餌と腸内細菌を同定

Tanoue T, Nagayama M, Roochana AJA, Zimmerman S, Ashenberg O, Jain T, Igarashi R, Sasajima S, Takeshita K, Hetherington N, Okahashi N, Ueda M, Konishi M, Nakayama Y, Minoda A, Skelly AN, Minokoshi Y, Pucci N, Mende DR, Arita M, Yamamoto H, Watanabe S, Miura K, Behie SW, Suda W, Sato T, Atarashi K, Matsushita M, Kajimura S, Plichta DR, Saito M, Xavier RJ, Honda K.

左から、本田賢也(責任著者)、田之上大、永山学、Ayumi Roochana (3人とも筆頭著者)

食餌と腸内細菌の相互作用は宿主代謝系に根本的な影響を与えますが、それらがどのように機能調節しているのか、その詳細なメカニズムは未解明な点が多く残されています。特にエネルギーを蓄える白色脂肪組織において、逆にエネルギーを消費するベージュ脂肪細胞に変化する「褐色化(browning)」は代謝改善の鍵として注目されています。通常の腸内常在菌を有するSPF(Specific pathogen-free)マウスに主要栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質)の組成がさまざまに異なる食餌を与えたところ、低タンパク質食が白色脂肪組織においてベージュ細胞を強力に誘導することを見出しました。この現象は無菌マウスでは著しく減弱することから、腸内細菌が必須であることが明らかになりました。次に、低タンパク質食を与えてベージュ脂肪細胞が誘導されたSPFマウス、およびFDG-PET検査で高いベージュ脂肪活性が確認されたヒトの便から、褐色化を誘導する能力を持つ細菌群を単離・選別、同定しました。例えば、ヒト由来常在菌のうち4菌株(Bilophila, Adlercreutzia, Eubacteriaceae, Romboutsia)の定着と低タンパク質食給餌により、ベージュ細胞の強力な誘導が再現されることをマウスで確認しました。そのメカニズムとしてこれらの腸内細菌が低タンパク質状況下で、アンモニア産生に起因する肝臓におけるFGF21産生や胆汁酸代謝を亢進させることがベージュ細胞誘導に重要であることがわかりました。今後、特定の食餌と菌株やその代謝物を組み合わせることや上記の作用経路を模倣するより副作用の少ない肥満・糖尿病、脂肪肝などの代謝疾患治療法の開発が期待されます。

(微生物学・免疫学教室 本田賢也、田之上 大)

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2: 多発性硬化症は腸から始まる? ―小腸が担う新たな免疫制御機構

Shohei Suzuki, Kentaro Miyamoto, Anna Tojo, Yusuke Yoshimatsu, Toshiaki Teratani, Hitoshi Uchida, Yasuhiro Nemoto, Ryuichi Okamoto, Andreas Michael Sihombing, Toshiro Sato, Jin Nakahara, Takanori Kanai, Tomohisa Sujino

左から、鈴木(筆頭著者)、筋野(責任著者)、宮本、吉松、東條(共同著者)

我々はこれまで、多発性硬化症およびそのモデル疾患において、腸内細菌叢を中心とした腸内環境が免疫応答や病態形成にどのように関与するかを解析してきました(Miyamoto K, et al., Cell Reports, 2023)。本研究では、多発性硬化症患者の小腸で炎症性T細胞(Th17細胞)が増加していることを確認しました。さらにマウス実験により、腸で活性化されたこれらの細胞が脊髄へ移動し、自己免疫性の炎症を引き起こすことを明らかにしました。加えて、小腸の上皮細胞が単なる栄養吸収やバリアではなく、免疫細胞に抗原を提示し炎症を誘導する機能を持つことを発見しました。この機能を欠くマウスでは病気が軽減されました。つまり、腸と脳という離れた臓器が免疫細胞を介して連携し、病気に関与すること、そして腸上皮が免疫の司令塔として働くという新しい概念が示されました(図)。腸の免疫を標的とした治療が、神経疾患の新たな治療法につながる可能性があります。

(坂口光洋記念講座 筋野智久)

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その他の掲載論文

2)Florzolotau (18F) retention is linked to neuropsychological performance in tauopathy.

Alzheimer's & Dementia.    

2026 April 01. doi: 10.1002/alz.71319

Atsushi Shimizu, Yu Iwabuchi, Shogyoku Bun, Memi Watanabe, Masahito Kubota, Sho Shimohama, Toshiki Tezuka, Keisuke Takahata, Hajime Tabuchi, Morinobu Seki, Yuki Momota, Yasuharu Yamamoto, Ryo Shikimoto, Yu Mimura, Shin Kurose, Ryosuke Sakurai, Toshiki Takayama, Yuka Hoshino, Takayuki Hoshino, Natsumi Suzuki, Ayaka Morimoto, Azusa Osumi, Masaru Mimura, Masahiro Jinzaki, Daisuke Ito