01 〔寄稿〕
共鳴する未来へ──大阪・関西万博 静けさの森とBetter Co-Beingの挑戦
大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー 医学部 教授 宮田裕章(みやた ひろあき)
2025年大阪・関西万博において、私はBetter Co-Beingという視座を軸に、静けさの森とパビリオンの構想、実現を担いました。そこで重視したのは、断定的な答えではなく、未来への問いに対する構えを、空間と身体を通じて開くことです。1970年の万博が、理性と衝動、技術と生命の緊張を象徴したとすれば、2025年はそれらを統合するのではなく、緊張を内包したまま「共鳴」という新たな共創を試みる場です。共鳴とは、異なるままに響き合うこと。調和や同化ではなく、差異が交錯することで新たな意味が立ち上がる関係の在り方です。SANAAによる建築は、風や光、来場者の行動と呼応する「関係の生成」として設計され、静けさの森では自然のささやきとアートが交差し、来場者は多様な存在と静かに関わります。この空間に通底するのが「最大多様の最大幸福」というビジョンです。従来の功利主義が数の論理によって幸福を測ったのに対し、Better Co-Beingでは、一人ひとりの異なる価値や感性が尊重され、響き合うことそのものが豊かさの基盤となります。分断の時代において、こうした共鳴の構造を社会の中にいかに編み直せるか。その実践の一端が、このパビリオンでした。
02〔取材・インタビュー〕
親子の「鶴」による「共創」で日本発・循環型ものづくりをアピール
環境情報学部 教授 田中浩也(たなか ひろや)
大阪・関西万博開幕以来、人気を博していた「日本館」。併設するバイオガスプラントで微生物が生ゴミを分解し、その過程で生じた排水を浄化した水を使用した水盤を中心に、無数の「木の板」が円環状に並ぶ建築のパビリオン。全体は、ゴミを分解し水やエネルギーを生み出す「プラントエリア」、藻類の無限の可能性を紹介する「ファームエリア」、そして日本が世界に誇る循環型ものづくりを実演・紹介する「ファクトリーエリア」の3つのゾーンで構成されていました。特にファクトリーエリアでは「循環型社会」の現在と未来を理解することができるようになっていました。
長年、国産3Dプリンタの開発とそれを駆使したものづくりの教育研究に携わってきた田中浩也教授は「ファクトリーエリア」の展示企画に参加。展示の目玉は、大小2基のロボットアーム型3Dプリンタ。まるで生命を宿した親子2羽の鶴が力を合わせてものづくりをしているように感じられることから「双鶴(そうかく)」と名付けられました。
今回の万博での「双鶴」展示は、田中教授が神奈川県鎌倉市で展開していた循環型まちづくり「慶應義塾大学COI-NEXT(共生アップサイクル)」プロジェクトの活動がベースとなっています。そこへ、国産バイオプラスチックの研究開発プロジェクトを展開する金沢大学と、混錬プラスチック製造、3Dプリンタの機械製造、ロボット制御技術について、それぞれ国内で先駆的に取り組んできた企業3社が集結し、新たな産学連携の共創チームが結成されました。
田中教授にお話を伺いました。
「3Dプリンタはゴミや騒音を出さず、消費電力も少なく、しかも時を経て使われなくなった製品を素材として再利用することができる。それは『未来の工場』の姿です。会場では訪れた皆さんに『双鶴』が藻類を混ぜ込んだバイオプラスチックを使用した循環型ものづくりの様子をご覧いただいて、日本館のコンセプト『いのちと、いのちの、あいだに』をより具体的かつリアルに感じていただきたいです」
田中教授の願い通り、息の合った作業工程を見せてくれる「双鶴」の姿に多くの来場者が立ち止まり、その生命感あふれる動きに見入っていました。「双鶴」がつくるのは館内各所で来場者が休憩するために置かれた「スツール」です。一見、大きな樹木の切り株のようにも見えるこのスツールは、「ファームエリア」などで紹介された藻類を混ぜ込んだバイオプラスチックを素材に、日本館の3つのゾーンをイメージした複雑な曲面で構成され、和の趣を感じさせるデザインとなっています。
「3Dプリンタはこの十数年で急速に進化しました。親子2基の『双鶴』はその最新型であり、製造だけでなく仕上げや検査まで一貫して行える、汎用的な循環型ものづくりシステムを国内外にアピールするチャレンジでもありました。最先端のデジタル技術を使った『双鶴』を日本のものづくりの伝統の中に位置づけることが私の目標です」
会場を訪れた世界各国の研究者からも注目を集めた「双鶴」。現在は移動可能な車両型の開発を進めており、また海外の研究者や企業・団体との連携も視野に入れています。日本のものづくり文化と先進技術の融合により生み出された「双鶴」は、世界へとその可能性の翼を広げようとしています。
04 〔Column〕
新保プロジェクトが開発したCAマークがパビリオン展示ロボットに
総合政策学部の新保史生教授がプロジェクトマネージャーを務める「ムーンショット型研究開発事業」では、サイバネティック・アバター(CA)の安全性と信頼性を確保するため、パスポートや通貨に匹敵する高度な偽造防止技術を組み込んだCAマークを開発しました。電子透かし技術により、スマートフォンアプリで真贋判定が可能です。大阪・関西万博の石黒浩・シグネチャーパビリオン「いのちの未来」のロボットに貼付し、利用者が安全基準に適合したCAを容易に識別できる、CA社会の信頼基盤となる重要な認証システムとして展示しています。
休憩所のひとつは、2007年環境情報学部卒業の山田紗子君が設計しました
04 〔取材・インタビュー〕
2050年の未来を見据えたサイバネティック・アバターを体感
メディアデザイン研究科 教授 南澤孝太(みなみざわ こうた)
南澤孝太教授は、日本政府出展事業(日本館)基本構想「いのちと、いのちの、あいだに」をまとめたメンバーの一人です。今回の万博では「フューチャーライフエクスペリエンス(FLE)」の「ムーンショットパーク~見て!触れて!感じる!新・未来~」において、7月23日から2週間、「Cybernetic being Life」と題した体験型の企画を展示しました。南澤教授がプロジェクトマネージャーを務める内閣府/JSTムーンショット型研究開発事業・目標1「身体的共創を生み出すサイバネティック・アバター技術と社会基盤の開発」の成果を、一般の来場者にもわかりやすいカタチで見て、触れて、体感してもらいました。
「サイバネティック・アバター」とは、アバター(分身)ロボットを操作したり、他人の技能をデジタルの力で共有可能にする技術。会場で来場者を出迎えたのはアバターロボット「OriHime(オリヒメ)」です。OriHimeたちは2021年に東京・日本橋にオープンした「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」で働く接客スタッフ(パイロット)で、全国各地の自宅にいながら交代でアバターロボットによる接客を担当しました。
「OriHimeたちとお話ししていただければわかる通り、ロボットの向こう側にはAIではなく生身の人間がいます。パイロットたちは難病や障害などさまざまな理由で外出が困難ですが、アバターを通してコミュニケーションや外出の喜びを味わうことができています。目が悪い人がメガネをかけるように、サイバネティック・アバター=『もう一つの身体』を当たり前のように使って誰もが活躍できる社会を生み出すことが私たちの研究目標です」と南澤教授は話します。
会場では、OriHimeのほか、身体が動かなくても脳波で操作するロボットアームで日常生活を取り戻す「Brain Body Jockey」、陶芸などの職人技のデジタル共有、他人の人生経験を自分の身体で経験するメタバースなどの研究が紹介されました。
05 〔寄稿〕
学びと遊びウィークで発表 未来社会のエネルゲイア「UniConn」
文学部通信教育課程 村井大慈(むらい だいじ)君
万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」は、私にアリストテレスの「エネルゲイア」を想起させる。アリストテレスは人間が生まれながらに持つ可能性を現実の活動へと開花させ、生まれてくる充実した状態が幸福だと考え、これを「エネルゲイア」と呼んだ。
まさにこの「エネルゲイア」の発露を促すための装置こそ我々が7月24日万博で発表した「UniConn」の構想である。「UniConn」は全国の学生同士と企業を結びつけて、社会課題解決を目指すプラットフォームアプリである。学生が社会課題に対して思いを投稿し、共感を集め、仲間を集い、具体的なアクションに至るまでを支援する。
私は社会課題とは誰しも少なからず抱える困難から始まると考えている。例えば私の友人は、幼時より妹2人の世話をするヤングケアラーであり、家庭環境を理由に進学を諦めた。もし、彼の苦境が早期に社会課題として共有され、支援があれば未来は変わっていたかもしれない。一個人が抱える困難に多くの人が共感し、協力して解決へと導くプロセスが必要である。
実際、学生79名を対象に行ったアンケートでも82.2%が社会課題に関心を持つ一方で、すでに行動しているのは20.3%、行動できていない学生の6割が「何をして良いかがわからない」と回答した。既存のSNSは共感を得ることはできても、世の中でアクションに至ることは少ない。さらにこのアプリでの企業との連携により、学生は活動資金や専門的知見を得られ、企業は自社の課題解決に学生の斬新な視点や行動力を生かすことが可能になり得る点でもアクションへと導く。
誰しもが日々の瑣末(さまつ)な雑事ばかりに目を向けて本当に為すべきことを忘れてしまう。それは過去の後悔か、環境のあるべき姿か、どんなに自分自身が恵まれていようとも社会課題はありふれている。そしてあり得たかもしれないより良い未来は私たちが作っていかねばならない。いのち輝く未来社会が「エネルゲイア」で満ちることを期待している。
政策・メディア研究科 教授 蟹江憲史(かにえ のりちか)
塾生会議で育まれた提案が、慶應義塾の枠を飛び出して今年2月の日本経済新聞社主催のコンテストで最優秀賞を取りました。審査員としてこの提案の発展を見守ってきましたが、万博会場で発表されたこの提案は、堂々としたプレゼンテーションを含めて評価の高いものでした。「SDGs+Beyondいのち輝く未来社会」テーマウィークのアドバイザーとして、私もこうした若者からの提案をはじめとした万博での議論を未来につなげたいと思います。
06〔寄稿〕
子どもたちに未来へのヒントを
パビリオン「電力館 可能性のタマゴたち」 副館長 1994年文学部卒業 石橋すおみ(いしばし すおみ)君
「電力館 可能性のタマゴたち」は「エネルギーで未来を切りひらく」をテーマに電気事業連合会が出展する民間パビリオンである。2024年7月以降、全国の電力会社から集まった仲間とともに大阪・関西万博出展プロジェクトに携わってきた。会期も残りわずかとなったが(執筆時点)、おかげさまで電力館は連日予約で満杯、来館者からは「親子で楽しめた」「さまざまな発電方法について学ぶことができた」といった声をいただいており、未来のエネルギーについて楽しく学べるパビリオンとして数々のメディアで紹介していただいている。
電力館はさまざまな形の平面で構成されるボロノイ構造を採用したタマゴ型の外観が特徴である(写真1)。来館者はタマゴ型デバイスとともにエネルギーの可能性を探す(写真2)。メインショーでは約30の未来のエネルギー技術を展示。核融合、無線給電、振動力発電、音力発電、マグマ発電、潮流発電、宇宙太陽光発電など、いずれも未来社会を支えるエネルギーとなる可能性を秘めた技術だ。小中学生をメインターゲットとする電力館は、これらの技術をゲーム形式で紹介。全身を使ってゲームに挑戦すれば自ずとエネルギーの原理を理解することができる。たくさんのゲームに挑戦した後に、さまざまな発電方法があること、身近なところからもエネルギーが取り出せること、世の中を変えるような革新的な技術があることを子どもたちに知ってもらうことが狙いだ。
今回の万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。全ての人の命が輝く未来を実現するために、どのような課題があり、どう解決するのか、さまざまな切り口で提示されている。多くのパビリオンで、多様な人々が共生できる社会を実現するための先端技術が紹介されている。期間ごとにテーマが設定され、国際社会が直面する課題を解決するための議論も交わされている。来場者にはここから自国や自身の生活をより良い方向へ導くための解を選び取ってほしい。電力館においても、2050年カーボンニュートラルのさらにその先を見据えて、社会の基盤を支える電力業界ならではの視点で未来社会を描いている。来館者、特に次世代を担う子どもたちが電力館での体験を通じて未来へのヒントを持ち帰ってくれていることを期待する。
07 〔一貫教育校生徒の活躍〕
「新時代の治療法~再生医療の最前線~」でグループ発表
志木高等学校 岡本憲眞(おかもと けんしん)君
志木高等学校2年生(当時)の岡本憲眞君を含むグループが、大阪・関西万博で厚生労働省が主催する展示ブース「新時代の治療法~再生医療の最前線~」の講演イベントで発表を行いました。
詳細は以下のページをご覧ください。
この記事は、『塾』AUTUMN 2025(No.328)の「特集」および慶應義塾志木高等学校ウェブサイトより構成しております。