執筆者プロフィール
前平 廉
経済学研究科 2024年3月修了/現在、コンサルティング業務に従事前平 廉
経済学研究科 2024年3月修了/現在、コンサルティング業務に従事
「文系で大学院?」――そんな声をかけられたのは、私が大学3年生の冬でした。周りの同期は就活生。就職を考える際、文系修士は、その専門性の高さが故に、「柔軟性や実用性に欠ける」といったイメージを持たれてしまい、就職ではむしろ不利という意見も耳にすることがありました。大学院生という言葉を聞くと、一人で机に向かい、孤独に思索を重ねる姿を思い浮かべるかもしれません。己と向き合い、知識を積み上げ、試行錯誤を繰り返していく営み――それが専門性を極めることだと考える人も少なくないでしょう。
しかし、私の大学院での生活は、そのイメージとは大きく異なるものでした。修士の授業は、学部時代の大講義とは異なり、3〜10名程度の少人数クラスが中心です。少人数だからこそ、授業は一方的に知識を受け取るのではなく、各自が主体的に議論へ参加し、互いの視点を学び合います。議論できる仲間は、学部から進学した学生だけではありません。社会人経験を経て戻ってきた学生、他大学からの進学者、博士課程の先輩、海外からの留学生――様々な価値観や経験を持つ人々との対話を重ね、自身の研究を磨いていきます。
さらに経済学研究科には、他大学大学院との単位互換制度があり、慶應に在籍したまま他大学の授業を履修できます。私もこの制度を利用し、東京科学大学の工学系の学生や教員と議論を交わすことで、経済学の枠組みを越え、数理的なアプローチを研究に取り入れることができました。異なるバックグラウンドを持つ学生との対話は、今まで自分自身では気づけなかった視点を絶えずもたらし、その度に自身の研究の輪郭が少しずつ磨かれ、専門性は確固たるものへと変化していきました。
このように専門性は、決して一人で極めるものではなく、多様な視点と出会い続けることでこそ育まれるのです。冒頭で触れた「文系修士は視野が狭い」という偏見は、慶應の修了生がその誤りを明確に示しています。大学院は専門性と同時に視野を深める場所であり、慶應義塾にはその土台となる多様な人材と学びの機会が確かに存在しています。