登場者プロフィール
実験助手が支える1学年18クラスの実験(高等学校)
高久睦生
高等学校物理科実験助手
森若菜
高等学校生物科実習助手
河合和美
高等学校生物科実習助手
インタビュアー:山内慶太
常任理事
インタビュアー:今川一生
高等学校教諭
慶應義塾高等学校理科教育の第一印象
―― 皆さんはどの科目を担当されているのでしょうか?
私は今年(2025年)の2月に赴任したのですが、担当は物理で、実験の準備などを手伝わせていただいています。
私は生物を担当して9年目になります。主に実験の準備や、授業で扱う生物の飼育を行っています。
私も生物を担当しています。今年の3月に赴任したばかりなので、森さんに色々と教わっているところです。
―― ありがとうございます。さっそくですが、皆さんは高等学校の理科教育、理科実験に赴任当初、どのような印象を受けましたか?
一番驚いたのは実験の回数の多さです。実は私自身、高校生の時に物理を選択していなくて、また高等学校の出身でもなかったため、「こんなに毎週実験を行うんだ」、と非常に驚きました。
歴史と伝統を非常に大事にされている、という印象を受けました。特に実験道具について、一つ一つを大切に扱っていて、昔から使われてきたものが現存している。最新の技術、というよりも昔ながらの技術を受け継いで、今に繋がっている。そのことに非常に感銘を覚えました。
奥深さを感じますね。私自身、理系の学部の出身ではなく、まっさらな状態で携わることになったのですが、9年目を迎えた今でも飽きることなく、楽しんで実験の準備に取り組むことができます。これは本当にすごいことだと思います。
実験の準備について
―― 先ほど毎週実験を行う、というお話がありましたが、高等学校は1学年のクラスも多いですし、年間でもかなりの回数の実験を行うことになるかと思います。その準備などで、大変なことはどういうことですか?
1学年18クラス、と聞くととても多いように感じますが、準備に関しては河合さんとお互いにコミュニケーションを取りながら行っていくと、そこまで大変ではない、という印象です。
ただ、就労時間が8~16時と決められていますので、その時間の中で作業を終えられるよう、とにかく前もって準備をする、ということを心がけています。実験後の片づけも、1時間くらいで終えなければならないので、どの作業を誰が担当するのかを話し合いながら分担し、互いの作業を確認しながら行うことで、スムーズに行うことができます。
物理の実験も同じですね。実験用の教室は4つあるのですが、多い時には1日5~6回、実験を行うこともあります。でも、基本的には実験の準備をし、それを教室に搬入する作業がメインになりますが、もう一人の助手さんと二人で行うことができます。
むしろ回数よりも大変なのは、同じ日に同じ実験がかぶってしまった時ですね。というのも、実験道具の数には限りがありますから、実験を行っている途中に、教室から教室に道具を移動させなければなりません。
一方、生物の実験はやはり前もって準備をしなければならないものが多いので、そこは大変な点です。同じ実験でも、先生によってレシピが違うので、それぞれ違った道具を用意しなければいけません
また、生物では実験に薬品を用いることが多いのですが、薬品は性質上、事前の準備が難しく、直前で準備をしなければいけないものも多い。そのため、前もって先生の実験の内容から、どの薬品を使用するのか、予想しておく必要があります。
―― ひと口に実験、といっても様々な種類があるということですね。
薬品の配合なども先生によって違うため、詳細を記した専用の用紙があり、実験の準備の際には欠かせないツールの一つです。今、生物科は5人の先生がいらっしゃるのですが、それぞれ実験のやり方は異なるため、その準備を間違わないように、注意するよう心がけています。
物理でも、先生方が必要な道具などを記した用紙を用意してくださるのですが、それだけではなく、プラスアルファで必要になるものもあるので、その点については逐一先生方に確認を取るようにしています。
あと、以前助手を務めてくれていた方が残してくださったマニュアルがあるのですが、これは非常に役立っています。実験道具のセッティングをする時など、初めてのものだと配線の位置がわからなかったりすることもあるのですが、そういう時にはマニュアルを参考にしています。こうしたところにも、ある種の伝統を感じますね。
道具や機材の管理について
―― 実験を滞りなく行うためには、道具や機材の管理も重要になるかと思います。その点はどのようなところに気を配っておられるのでしょうか?
実験は6班にわけて行うのですが、その際、それぞれのテーブルに、使用する道具や機材をひとまとめにしたバットを用意するようにしています。その方がスムーズに実験に取りかかれるので。
また、実験において常時使用する道具については、各テーブルの引き出しに入れてあるのですが、これも実験にあわせて、使用頻度の一番高い道具を一番上の引き出しに入れるようにしています。
物理では実験に使う道具が多く、全部あわせると一部屋分くらいの量があります。それだけ多いといざ「この道具が必要!」となった時に一から探すと時間がかかってしまうため、「どこに何があるのか」ということは常に把握できるようにしています。それこそ今年、若手の先生方が道具を整理してくださって、不要な道具を処分することができたので、管理については今のところ一安心、といった感じです。
また、同じ実験で使う道具については、一まとめにするよう、心掛けています。その方が実験を行う際、まとめて持ってくることができるからです。
生物ですと、実験で使う生物の仕入れ、といった点についても気を遣います。たとえばカエルの解剖では現在、アフリカツメガエルという品種を扱っているのですが、実験まで温室で生きたまま飼っておく必要があります。餌をやらないとすぐに死んでしまう、という品種ではないのですが、もちろん飼育には手間がかかりますし、温室のスペースの都合上、18クラス分をまとめて仕入れることはできないんです。そのためどのタイミングでどれだけの数を仕入れるのか、その配分を見極めることが非常に重要になってきます。
また、管理でいいますとゾウリムシも大変です。1年かけて培養するのですが、そのためにまず、藁を鍋で煮て、煮汁ごとガラスの容器に入れます。そこに、ゾウリムシの種水を加えるんです。容器の中でゾウリムシは繁殖するのですが、時間が経つと水が減って来るので、新たな容器に移し替え、藁と煮汁を加える作業を行います。2カ月周期でこの作業を行う必要があるので、1年間に計6回、行うことになります。ゾウリムシは3年生の実験で使うのですが、いつでも使えるよう、常に培養を行っています。
―― 管理一つとっても、色々なことに注意を払わなければならないのですね。そうした作業の中で、やり甲斐を感じられること、また苦労されていることもあるかと思いますが、どのような時にそれを感じられるのでしょうか?
やり甲斐を感じられるのは、やはり、先生方に頼まれていた準備をしっかりとすることができた時ですね。特に新しい実験の時は、こちらも初めて準備しなければならないものも多いので。そうした時、滞りなく実験が進められると非常に達成感を覚えます。
苦労した点で言いますと、やはり私自身がこれまで物理を学んでいなかったため、専門用語や実験道具の名前がわからない時です。特に最初は、以前助手をされていた方が残してくださった資料を元に、実験の準備をしていたのですが、その際道具が見つからず、準備室で一時間近くかけて道具を探したこともありました。
私の場合、実験の準備の中で自分なりのやり方を摑めた時が、一番やり甲斐を感じますね。もちろん最初はベテランの方に色々と教えていただくのですが、その中で自分なりの準備の方法やリズムといったものを摑めた時、「こうすればよりスピーディーに準備ができる」という感覚を得られた時に、やり甲斐を感じます。
苦労するのは、先ほどのカエルの話もそうですが、やはり生き物を扱っているので、その管理ですね。年によってはカエルの飼育がうまくいかなかったり、植物がうまく育たなかったりすることもあるので、その時にどう対応するか、という点についてはいつも頭を悩ませています。
実験を滞りなく進められた時にはやはり、達成感を感じますね。実験を終えて片づけをしている時に、こみあげてくるものがあるというか。
苦労した点で言うと、実験が終わった後、実験道具がきちんと返却されているか、という確認をするのですが、それが大変ですね。特に薄いカバーガラスなどは濡れているとくっついてしまうため、正確な数がわかりにくい。数える時にはいつも苦労しています。
―― 実験を行う上で安全の管理も重要だと思います。その点についてはいかがですか?
生物科では月に一回、薬品のチェックを行い、また春と夏には全ての薬品をチェックするという習慣があります。その際、危ない薬品は生徒さんの手が届かないところに配置しなおしたり、地震などがあった際に棚から落下しない様、落下防止グッズを設置したりしています。
物理でも、実験道具のチェックはこまめに行うようにしています。例えば実験で電池をよく使用するのですが、保管している電池に液漏れなどがないかは、注意して見るようにしていますね。
―― 皆さんの徹底した管理が、理科実験を支えているのですね。本日はどうもありがとうございました。