執筆者プロフィール
平井 靖史(編著)(ひらい やすし)
文学部 教授平井 靖史(編著)(ひらい やすし)
文学部 教授
「時間の哲学」と聞くと、難解で、自分の生活とは縁が遠いものに思える方も多いかもしれない。けれども、現代社会のなかで私たち1人ひとりを一番苦しめているものは何かと考えてみると、それはほかでもない、時間ではないだろうか。
私たちは時間を、秒・分・時間、午前・午後、平日・週末といった小さな区画にこまかく切り分け、評価の指標や行動の制約として日々まわしている。締切、勤務時間、可処分時間。そうやって扱われる時間はたしかに便利ではあるけれど、ずいぶんと偏った姿をしている。一度これをほぐして、もう少し広いところに置きなおしてみることはできないだろうか。本書の出発点はそこにある。
幸い、哲学のなかには、時間を捉えるための優れたレンズがすでにいくつも蓄えられている。本書は、そこから6つを選び抜き、共通の足場として第1部にまとめた。観点、領域、時制、時間経験、アスペクト、そして様相の6つである。第2部はその実践編で、ジェイムズ、フッサール、ベルクソン、ホワイトヘッド、ハイデッガーの時間哲学を順に読み解いていく。レンズが揃うと、時間に対する切り口が一気に増える。さらにそれらを組み合わせて使ううちに、これまで1本の数直線にしか見えなかった時間が、もっとしなやかで、呼吸のしやすい、風通しのよいものとして、ゆっくりと立ち上がってくる。
本書は、2023年に慶應義塾に着任して間もない頃、Xでのやりとりから生まれた勉強会に端を発している。3週間に一度、6名の研究者がそれぞれの専門とする哲学者を持ち寄り、率直な問いを投げ合う対話を1年あまり続けた。あるとき自然に「これは1冊の本にしないといけない」という気持ちがメンバーの間に立ちのぼり、慶應義塾大学出版会の編集者・上村和馬さん、そしてコラム執筆者の皆様のお力添えを得て、こうして1冊のかたちにまとまった。
時間に追われ、時間で測られる毎日のなかで、もう少し違うかたちで時間を持てないだろうかと感じる方に、本書を手渡したい。読み終えたあと、ふだんの生活のなかを流れる時間が、ほんの少しでも息をしやすくなっていることを、編者として静かに願っている。
『時間を哲学する──思考のためのツールボックス』
平井 靖史(編著)(ひらい やすし)
慶應義塾大学出版会 314頁 2,200円〈税込〉
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。