執筆者プロフィール
酒井 信(さかい まこと)
その他 : 明治大学准教授法学研究科 卒業2002政メ修、05政メ博
酒井 信(さかい まこと)
その他 : 明治大学准教授法学研究科 卒業2002政メ修、05政メ博
この本は私の恩師・福田和也の代表作の1つ『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』(文藝春秋)の影響を受けて書いたものです。ちょうど私が大学院にいた頃、師は批評家として「脂」が乗っており、彼のように伝記と批評を合わせた作品を書きたいと、長らく考えていました。
福田和也にとって石原莞爾のような存在が、私にとっては松本清張でした。出版不況で原稿依頼が減ったとき、私はたびたび、小倉の松本清張記念館を訪れ、41歳で作家としてデビューし、様々なジャンルの作品を記して、国民作家となった彼のバイタリティに励まされてきました。
松本清張は「三田文学」の編集委員を務めたことがあり、彼の長男・陽一は、慶應義塾大学を卒業して電通に就職しています。清張のデビュー作「西郷札」を、直木賞の選考委員として最も高く評価したのが、慶應義塾大学で教鞭を執った作家・木々高太郎でした。木々の紹介で、清張は「三田文学」に3作目の『記憶』と、4作目の『或る「小倉日記」伝』を寄稿し、後者で芥川賞を獲得して、作家として飛躍しています。
『松本清張の昭和』は帯文のとおり、新発見の資料も含め多くの資料を使った、松本清張にとって「初の本格評伝」です。2018年に清張が12歳の時に書いた詩が発見され、2025年に彼が小倉で、米兵の死体処理のアルバイトをしていた可能性が高いという証言も出ています。本書は清張自身が『半生の記』などの自伝的小説で触れていない事柄を、網羅的に記した内容です。
清張の恋愛経験や、年収の推移についても具体的な記述があります。『黒革の手帖』のモデルとなった女性とは? 松本清張の年収が最も高かった年はいつ? 『砂の器』に込めた父への愛憎半ばする感情とは? など、目次に挙げた問いの答えを、本文でご確認いただければ幸いです。
カッパノベルスや新潮文庫の発行部数など、国民作家・松本清張の数値的なデータの分析を行った点も、この本の大きな特徴と言えます。原武史先生と酒井順子さんに、優れた帯文を頂き、大変良い本に仕上がりました。本書をとおして昭和の文豪・松本清張の「逆境の中で這い上がる力」を実感して頂けると幸いです。
『松本清張の昭和』
酒井 信(さかい まこと)
講談社現代新書 264頁、1,210円〈税込〉
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。